オレが更正させてやる
この日も夜の11時までお預けとなる晩酌タイムまで、ホールのソファーで『パワフル』のハマリ台の空き待ちをしつつ、ロボットでもいいから是非とも1億円で購入したいと心から願う「絶対彼女」の自分専用プログラムを妄想していると、ジャグラーのシマから「ドゴンッ!」という低く鈍い音が聞こえてきた。
周囲の視線を一瞬にして集めたその台。告知ランプが光ると同時に鳴るドコン音が反響して大きく聞こえただけか?と思いきや、どうやら打っていた人がド派手な「台パン(台をパンチの略)」をカマしたようで、席を立ちながらなにやらブツブツと文句を言っている。
なんだなんだ、ジャグラーでストレート1500回転くらいハマったのかと興味本位でその台に近づいてデータを見上げると、まぁ見事なまでのデータが目に飛び込んできた。
「約5000回転でBIG13回のCB29回」
バケを引くから粘ってみたものの、BIGが引けずに心が折れてヤメ……アイムでよく起こる典型的なダメ展開。見れば両脇はいかにも高設定の挙動で2000枚オーバー、確かにこんな台に挟まれてのこの展開なら、キレる気持ちもよく分かる。
けどね、ただ闇雲に殴ったってコインは出ないんですよ、叱ったってこういう子はいうことを聞かないんですから。「生徒の心を惹きつけるにはまず愛情〜by川藤先生〜」って言ってたかどうかは忘れたけどとにかく、こういう不良を更生させるにはそれ相応の打ち方ってもんがある。どれどれ、ボクに代わってみなさい。きっとここから素晴らしい生徒に育て上げてみますから。
まぁバケが1/200を切っているにも拘わらずBIG確率約1/400ですから。これは相当に曲がってますわな。昔風なら短ラン・ボンタン・リーゼントで改造単車。今風なら腰パン・ホスト風髪型でそもそも学校に来ない……ってな感じ。いや今は逆にオタクっぽいほうが危ないのか?
まぁとにかくこういった生徒と向き合うにはまず、生徒と同じ目線に立つことが重要でしょ。うん、まぁ話をする前にとりあえず、タバコでも一本吸ってみるかい? ……なんて写真のようにタバコを勧めてみると、実に旨そうに吸う3年D組のピエロ君。バケがBIGの2倍以上……というようにやってることも極悪だが、それだけじゃなく見た目まで金髪に染めて顔には化粧……といかにも悪そうな生徒ではあるけれど、うっすら浮かべたその笑顔には警戒心がない様子。何に対して不満なのか、何が嫌で拗ねているのか1ゲーム1ゲーム左手で撫でるように触れ合いながら尋ねると、意外や意外、ものの5000円程度で口を開いてくれた。
青二才に振り上げた愛の拳
聞けば「自分で言うのもなんだけど中学まではなかなか成績が優秀だったが、高校に入って勉強に付いていけず何もかも嫌になった」……とのこと。
なるほど、確かにこの学校は優秀な生徒が多い。両脇は明らかな超優秀生徒だし、周りを見渡してもだいたいが1箱か下皿満タンのAクラスの生徒ばかり。そんな中で自分だけ追試の繰り返しになってしまったら、そりゃグレるのもよくわかる。
でもな、考えてもみろよ。オマエはCB29回だぞ? やれば出来るヤツなんだぞ? 明らかに周りのヤツらなんかよりも光っている部分があるじゃないか! 頑張れば何だって出来る。キムタクだって総理大臣になれちゃうんだから……な? そうだろ? そう語りかけるも「どうせそんなこと言ったってオレなんか設定5止まりなんだよ! 一生設定6には勝てないんだよ!」と、またこちらに背を向け、心に蓋をしてしまう3年D組のピエロ。一度は5000円でこちらの話を聞いてくれたものの、そこからはまた説得してもバケ、耳を傾け始めたと思ってもバケ。素直に自分の心の内を明かそうとしない。
今までにもこういう生徒には多く出会った。6判が落ちた松戸のドンちゃんや上野の蛙君、池袋の雷神君もそうだった。
彼らもまた、時に信じられないようなグレ方をした。しかも一度そうなり始めてしまうと、閉店という名の卒業までには更正しきれないことも多い。しかしそんな時、とにかく教師としてしてやるべきことは「体ごとぶつかっていく」こと。例え今日、良い結果が出せなくても落ち込むことはない、オマエには伸びる「素質」があるんだ。入学から今までの損失を取り返せなくてもイイじゃないか。最後に輝けば、きっとオマエは全てを納得し、すがすがしい顔で卒業できるハズ……にもかかわらず、そんな風に何もかも分かったような顔をして拗ねてたら一生陽は当たらないんだぞ!? なぜそれが分からないんだ! この青二才が!!
「オレは2歳じゃねー!18だ!」
涙ながらにそう吐き捨てた彼は、こちらに231(ニサイ)ゲームで光った途端、BIGな拳を2発、3発と振り上げてきた。そう、それで良いんだよ。溜め込んだものは全てここで吐きだしちまえ、オレがいつだって相手になってやるから。やればできるじゃねーか!
そして1時間、お互いボロボロになりながら殴り合い、互いに床に崩れ落ちた後、彼は言った。
「センセー。オマエのほうが2000円くらい負けてるから、オレの勝ちじゃね?」
まぁ、そうだな。でもな、実はあの後、オマエに殴られたところをを診てもらおうと思って保健室に行ったら、天井を見上げながら保健室の葉月センセと2回ほどうまくいっちゃってな、もう勝ち負けなんてどうだって良い気分なんだよ。オマエも残り時間、頑張って卒業目指して頑張れよ!
卒業間近に彼を見に行ったところ、彼はさらに思いっきりグレていた。
BIG20のCB45……だって(汗)。
なかなかドラマのようにはいかないモンですわ。